天野怜

天野怜

Seven with Signor Sake:天野レ怜(あまの れい)笹一酒造 山梨県

私のお気に入りの日本酒の造り手に7つの質問を通して話を聞き、歴史ある伝統技術に迫ります。

天野 怜は、過去10年にわたり笹一酒造を牽引してきました。常務取締社長として、百年以上の歴史を持つ銘柄に加え、新しい銘柄を導入することで、蔵の新たな道を切り開いています。笹一酒造の公式サイトを見てみると、商品である酒の品質はもちろん、デザインやメッセージも大事にしていることがよく分かります。このサイトは、天野さん自身がデザインしたものです。

笹一酒造は1661年の創業ですが、1919年に天野さんの曾祖父が「笹一酒造株式会社」として法人化しています。蔵の位置する山梨県は内陸県で、南アルプスを擁する森林地帯です。山梨県は、良質な水源に恵まれていることから飲料メーカーが点在し、甲州や勝沼など日本有数のワイン生産地としても有名です。

一 なぜ蔵に入ろうと決めましたか?

高校まで蔵のある山梨の大月で育って、大学でアメリカに行ってファッションの勉強をしました。日本に帰って来てからはファッションブランドの広告の仕事をしていました。

笹一酒造は一族でやっている蔵です。私の従兄弟が継ぐ予定でしたが、早くして亡くなってしまったため、私の父が継ぐことになりました。突然のことでしたが、父は蔵で働いていましたので仕事の内容は理解していました。その10年後に父から蔵に戻ってこないかと言われた時は喜んで受けました。伝統のある家業を継いでいくことは私たちにとってとても大切なことです。

「最盛期のように日本酒が日本で売れなくなっているので、新しいアプローチをすることですね。」


二 今までで一番大変だったことはなんですか?

最盛期のように日本酒が日本で売れなくなっているので、新しいアプローチをすることですね。それでも最高級のものを造り上げ、最高のレストランでも売れるものを造ること。伝統の中から最先端のものを創意工夫して造るのが大変でした。

三 主要銘柄である「笹一」と「旦(だん)」の違いについて教えてください。

蔵の名を背負う「笹一」は、法人化した1919年から、地元である関東地方へ多く出荷しています。全量、山梨産米を使用しています。

「旦」は新しいプレミアムな銘柄です。最高の米、技術を使った、ラグジュアリーな酒。最先端の技術を投入しています。

自家米の栽培もしていますが、とても少ないです。山梨はシャインマスカット、巨峰等のフルーツを農作した方が利益が出るため、米の農作はやはりフルーツに比べると少ないですね。



四 旦の金字のラベルが印象的です。ラベルについて教えてください。

この旦のラベルには色々な意味を込めています。まず、旦という漢字には、全ての始まり、「元旦」で使われているように一年の始まりや新しいことの始まり、富士山から山頂から見える日の出という色々な意味があります。加えて、「旦」という字を分解すると、「日」と「一」にわかれ、これは笹一酒造が目指している日本一と同じになる。

また、ラベルの文字を書いてくれたのは、金澤翔子 (カナザワ ショウコ) さんという超一流の書道家です。彼女はダウン症であるにも関わらず、天皇陛下の前で書道を披露したり、色々なお寺に文字を書いて納めている人です。彼女は文字を絵のように描きます。ですので、漢字が読めない海外の人でも、心でこの旦の意味を分かってくれると思っています。

「山梨はシャインマスカット、巨峰等のフルーツを農作した方が利益が出るため、米の農作はフルーツに比べると少ないですね。」

五 2013年まで大量生産を行っていたと聞きました。

元々、笹一酒造は関東で一番大きい蔵でした。私たちは自民党の政治家の一族だったため、政治の行事や神社へお神酒として日本酒を提供する機会が多かったのです。また、都内から1時間程の場所に蔵が位置していたため、毎朝4時にトラックに酒を積み、銀座へ直接日本酒を販売していました。まだ馬車しか走っていない約100年前に、笹一のロゴが入った赤いフォードで、政治家である祖父が酒を配り歩きました。


「元々、笹一酒造は関東で一番大きい蔵でした。」

また、当時は他の地域の日本酒が流通していなかったため、普通酒が多く出回り、関東の酒の需要は全て笹一で供給しており、年間100万本の酒を関東に出荷していました。それが時代と共に西や東北の酒が関東に流通するようになり、日本全体の酒の需要の変化と同じように、笹一の酒も変わっていきました。大量生産を一回やめて、自分たちの手作りで最高の酒を作ろう、もう一度原点に戻ろう、ということで旦を作りました。



六 山梨はとても水が豊かです。笹一酒造にとって水はどれほど大切でしょうか?

お米、水は双方大事ですが、特に水を気にしています。米は輸送できるが、水は輸送できないので水は一番大事にしています。江戸で何かあった際に将軍がすぐに逃げられるよう、江戸から甲府まで一本で繋がる甲州街道と言う道があります。蔵は丁度、山越えの途中の峠、笹の峠に位置しています。山越えの難所に宿場町ができて、そこが味噌や醤油の醸造で350年前から栄えました。

「明治天皇が京都へ行った際もここの水を持っていったくらいです。」

このエリアは水が非常に豊かで、江戸城のお茶会では千利休が毎回、ここの水を汲ませていましたし、明治天皇が京都へ行った際もここの水を持っていったくらいです。

日本のミネラルウォーターの45パーセントは山梨産でもあります。

サントリーは昔、このエリアの山を買いに来ましたが、山間で水が大量には取れなかったと聞いています。その結果、代わりに白州を購入して、そこがウイスキーで有名になったんですね。

「恵まれた地元の特徴を活かす酒造りもしています。」



七 酒造りのインスピレーションはどこから来るのですか?

技術的な面では能登が世界トップの高級酒に近いと思っているため、そこを目指していますが、経営方針としては自分の所の地域性を生かしたいと思っています。

チャレンジをするのと同時に伝統を守りながら、酒の文化を後世に伝えることをとても大切にしています。自分達にとって常に最高のお酒が作れるように毎年形を変えてチャレンジしていますし、また、恵まれた地元の特徴を活かす酒造りもしています。


SIGNOR SAKEのお気に入りの日本酒

旦 備前雄町

岡山県の備前地方で収穫され、ブランド酒米にもなっている雄町米を使用しています。備前地方は約3,500年前まで遡る米どころであり、千年の歴史を持つ備前焼の産地でもあります。茶人の千利休も備前焼を愛用したと言われています。控えめなマスカットの香りと共に雄町米の優雅なニュアンスが感じられます。なめらかでシルキーな旨味と爽やかな酸味の余韻が絶妙です。

米の種類:備前雄町(岡山県)
精米歩合:
55%
酵母:
N/A
アルコール度数:
17度
カテゴリー:
山廃純米吟醸
サブカテゴリー:
無濾過生原酒

笹一酒造ホームページ

https://www.sasaichi.co.jp/

堺哲也

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奥 裕明

奥 裕明