堺哲也

堺哲也

Seven with Signor Sake:堺哲也(さかい てつや)奈良県   千代酒造 (ちよしゅぞう)

私のお気に入りの日本酒の造り手に7つの質問を通して話を聞き、歴史ある伝統技術に迫ります。

堺哲也さんは、仕事と恋愛に導かれ、離れるつもりのなかった故郷の北海道を後にしました。その後、蔵元の娘さんとの結婚を機に山梨でのワイン造りの仕事を辞め、経験がないまま千代酒造で酒造りを始めました。

千代酒造は、同じ奈良県にある久保本家から独立して生まれた酒蔵です。家紋が共通していることから久保本家と同じ久保家の酒蔵であることがわかります。創業は明治6年ですが、廃業した酒蔵を明治35年に買い取り、篠峯山の近くの現在の場所に移転しました。 

堺さんは、副杜氏として修業を積んだ後、以前からの銘柄「櫛羅(くじら)」に加え、「篠峯」を発売。入社して9年目の2004年に杜氏に就任しました。出身地である北海道をはじめ、全国から10種類以上の米を取り寄せているほか、1995年からは山田錦の自社栽培も開始し、管理する田んぼの数は蔵で使用する量の約10%まで増えています。「米作りは、酒造りへの理解を深めてくれる」と語る堺さん。肥料や農薬をほとんど使用せず、酒の副産物を田んぼに戻す循環型の栽培を行っています。

一 堺さんは酒蔵に入る前に山梨のワインメーカーで働いていましたね。酒蔵で働き始めた頃の目標と、ワイン造りの経験が日本酒造り与えた影響があれば教えてください。

私が米を自ら作ってみよう、また、熟成させて美味しい酒造りを目標としているのは、考え方のベースとしてワインがあったかもしれないです。ワインの造り方が私たちの酒造りに直接役立っているかと言われると微妙ですが、考え方としては、ワイン造りはとても勉強になりました。

北海道が好きだったので、最初は離れるつもりはありませんでしたが、やはりなかなか就職先がありませんでした。そんな時に、たまたまグレースワインが千歳でハスカップワイン造りを始めるという事で、地元の人を採用募集していたので、日本酒の蔵よりはワイン造りの方が仕事は楽かもと思い、ワイン造りを選びました。結局は北海道ではなく、山梨で5年ほど働きました。

酒蔵で働き始めて一番最初に目標としたのは、アミノ酸が少ない酒を造ることでした。その次の目標は生ヒネしにくい酒、その次が熟成させても美味しい酒を造ることです。この3つの目標は今でも変わりません。

オールドスタイルの日本酒は重く、スタイリッシュではないと感じました。25年前は、吟醸の方が良い酒なのかなと思っていましたが、今は吟醸造りから離れました。丁寧に造れば米をたくさん削らなくてもアミノ酸の少ない酒は造れるので、吟醸造りというアプローチはしていません。

二 蔵に入ってから一番大変だったことを教えてください。

日本酒が売れなかった時の資金繰り、経営は大変でした。酒造りにおいては、大変だったと思うことはあまりありません。ある年の12月に1人辞めてしまって、一時人手不足で大変でしたが、アルバイトを雇ってどうにかなりましたし、生活リズムとして若いうちは、早起きが大変でしたが、年をとってからは早起きも苦になりません。やはり、経営が一番大変でした。

水のテロワールはあると思います。お米のテロワールは少し難しいかもしれないですが、水からくる違いは大事にするべきでしょう。

三 ワイン用語を日本酒に当てはめることに関して賛否両論ありますが、場所と時間の表現という観点から「テロワール」という概念は日本酒にも適用できると思いますか?

水のテロワールはあると思います。お米のテロワールは少し難しいかもしれないですが、水からくる違いは大事にするべきでしょう。ここの水は軟水です。近所の油長酒造は水がすごく硬いので、標高の違いが水の違いを出しているのでしょう。ここは山なので標高が125mあります。油長は駅前なのでもっと低いです。

米に関しても同じ農家でも田圃が離れていたり、土壌が違えば違う味になります。私はそういった違いに、もっと敏感になるべきだと思います。農家に違う米をなるべく混ぜないよう、土の違いで収穫日を分ける依頼をしたり、その米を精米の際に混ぜないようにするべきです。

四 数々の品種の中から、使用する米の品種はどのように選定されていますか?

古い時代に開発された米を使いたいですね。購入する米に関しては、雄町は岡山県瀬戸町というエリアの米を指定していますが、瀬戸町だけでも農家が28軒ほどあります。どこの農家という指定はしていません。自家米は、夏に4ヘクタールほどの田んぼで山田錦を育てています。使用している米の10%が自家米です。自家米を増やすことは経済的にはメリットはないですが、これから海外に酒を売っていくには大事なことですし、地域の貢献にもなりますので、5~6ヘクタールぐらいまで増やしたいです。

五 精米歩合が高いお酒がいいお酒だという人も居ますが、精米歩合についての考えを聞かせてください。

本当はお米を見て、どれくらい何%で精米したら一番美味しくなるか分かればかっこいいのですが、なかなかそれは分からないです。磨いた米の良さ、磨かない米の良さは上達しているとは思っています。これからは米を磨かない酒造りが広がって行くのだろうなと考えています。吟醸酒は米を磨く分、個性が薄くなっていきます。米の力強さを打ち出せる酒造りになっていくでしょうね。

六 銘柄それぞれの酒の味わいとコンセプトを教えてください。

酸の味わい、飲み口のクリアさを感じて欲しいです。昔は酸が多い酒が多かったですが、綺麗な酸である必要があります。ただ酸が多いだけではダメですね。そのためには麹の造りが大事です。私たちの酒はソウハゼの麹で造っています。麹の製麴時間が長いので、この酸が出てきます。

櫛羅(くじら)はオーソドックスな酒造りをしています。山田錦と9号酵母を使い、スタンダードな造り方をしています。兵庫などの山田錦との味わいとは多少違うので、櫛羅ならではの山田錦の味わいの違いを感じて欲しいです。

篠峯(しのみね)はブランド立ち上げのコンセプトが熟成して美味しい酒を造るということだったので、当初は山田錦と雄町だけを使用していました。古い米の品種の方が熟成させた時に味が晴れるからです。しかし、技術的な好奇心で色々な米を使ったり、酵母を掛け合わしたりしました。今は米の味わいの差を酒の味に繋げることはできていると思います。なので、次のステップは米の種類の違いだけでなく、米の産地の違い、農家の違いを酒に表すことができたらと思っていますが、葡萄と違い少し難しいです。

濁酒は濾さない良さを感じてほしいです。濁酒の間は、丈夫で、繊細さが少ないものです。濁酒は12~13年ぐらい前から造っています。それまでは濁酒の免許がもらえなかったので酒税が変わった翌年から濁酒を造っています。絞って美味しいものを造るのには、技術的にもデリケートなものを求められる。絞らない良さを濁酒で味って欲しいです。

七 今後の展開について教えてください。

自家米の田圃を増やすこと、熟成して美味しい酒を開発することです。低アルコールが1つのテーマです。純米にしたことで、酒の味が重いです。アル添していた時の軽やかさがないです。重い味を解決するための方法が吟醸という造り方ですが、吟醸酒にしたことで甘さ、香りがまた軽さを邪魔しています。磨く、削るという造り方から離れて、重い味を解決するためのもう一つの解決策が低アルコール化です。飲み飽きない味わいで、しっかりしていて、熟成して美味しい酒が目標です。

SIGNOR SAKEのお気に入りの日本酒

篠峯(しのみね)もろみにごり

蔵の位置する篠峰山脈にちなんで名付けられた「篠峯」シリーズは、熟成を念頭に、様々な品種の米と酵母を使って造られています。「篠峰 もろみにごり」は、酒を搾った後にタンクに残ったもろみを瓶に入れ、やや濁りのあるスタイルに仕上げています。フレッシュでシルキー、クリーミーなうまみと、切れのある酸味。大胆でスパイシーなタイ料理や四川料理と合わせてみてはいかがでしょうか。


米の種類:大山錦
精米歩合:50%
酵母:協会酵母9号
アルコール度数:17%
カテゴリ:純米吟醸にごり
サブカテゴリー:生原酒

千代酒造ホームページ

https://chiyoshuzo.co.jp/

竹鶴敏夫

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天野怜

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